サレジオの器

ーある日、美のタカラモノと出会ったー 

10.孤独

 

アパートは僕以外誰もいなかった。僕はもはや抜け殻のように壁にもたれかかっていたので、気配すら発してはいなかった。なので、はたからみたらもぬけの殻のような部屋に見えたことだろう。

「少し・・・考えさせて・・・」

琴はそう言ってアパートを出て行った。

あの夜、僕は正直にすべてを話したが、ショックで信じられなかったみたいでしばらくは黙って呆然としていたが、途端に泣き出してしまった・・・

「おい・・・だ・・・だいじょう・・・」

 そう僕が言いながら彼女にそっとふれようとしたら

「これから・・・どうするの・・・?私たち・・・どうなるの・・・?」

しくしくと泣いているようだったが、その声にはどこか怒りと悲しみがこみ上げていた。

「それは・・・僕らで話し合って・・・」

「話し合うって何よ・・・もう子供も生まれてくるのに・・・」

それを言われて何も言えなくなり僕もその場で黙ってしまった。

そして、それっきり会話もなく彼女はアパートを去り次の日に、お腹の中の子供と一緒に実家へと帰って行った。

 それから何日続いただろう・・・

僕はもはや何もかもどうでもよくなり自暴自棄になりかけていた。朝っぱっから酒を飲み、レトルトやインスタント食品ばかり食べ、台所の流しはろくに片付けもせずに悲惨な状態になっていた。捨てに行くゴミもたまっていて臭いが充満し出して次第に隣の部屋から苦情が出たらしく、大屋さんが厳重注意しに来た。それで、ふと我にかえり生活を再び取り戻そうとして部屋は一旦綺麗にはなったものの、また再び自堕落な生活になり始めた。そしてそんな日々がもう何か月も続いた・・・

そんな最中、穂乃花から久しぶりに連絡があったりもした。

「久しぶり・・・修一。私はまあまあだよ・・・結婚式のときは突然ごめんね。あの時は私も少し動揺してたからさ・・・聞いて!私こんど初めてプロジェクトのリーダーを任されることになったんだ。だからね・・・もしよかったら修一にお祝いしてもらえないかなって・・・もう昔のことは綺麗さっぱり忘れてさ・・・結婚したばかりだからお忙しいと思うけど、予定とか・・・どう?奥さんに怒られちゃうか・・・元カノからの呼び出しだなんて・・・」

 そんな内容のメールがLINEに入っていた。よく読むともう数日前に来た内容だった。そして昨日の夜に改めて違うメールが入っていた。

「返事・・・ちょうだいね。」

中々返事が来ないから気になったのか、再度送信したようだった。僕はもう何日もスマホの電源なんてつけてなかったから浦島太郎状態だった。

「久しぶり・・・元気だよ・・・」

いきなり嘘をついた。

「元気そうでよかった・・・結婚式のときは僕も突然でびっくりしたけど・・・」

 そう書きかけたけど、僕はやるせなくなって書きかけたLINEのメールを全部削除してしまった。

 そして、僕はその夜は駅前にある個人営業らしき居酒屋に入り浸った。生ビールから、サワー、梅酒、ジンリッキー、日本酒、そして焼酎ロックまで軽く10杯くらいは気づけば飲んでいた。もうベロンベロンの状態でテーブルにうつぶせになってしまっていた。そして、最後の客になっていた。

「お客さん・・・大丈夫ですか?そろそろ閉店なので・・・」

カウンターの向こう側からそう言われて僕は顔をあげると、店主の顔がもはやぼやけて映った。

僕は力も完全に抜けてよろよろしながら靴を履くと

「大丈夫ですか?」

と店主が慌てて肩を貸してくれた。

そして、何とか勘定をすませて、店先まで連れていってもらった・・・

「大丈夫ですか?」

親切な店主らしく修一のことを心配してくれた。

「はい・・・じ・・・地元・・・なんです・・・すぐそこですから・・・あ・・・ありがとうございます、ひっく」

 呂律も回らなくて、おまけに強烈なしゃっくりが最後に思わず出てしまった。

僕がよろけながら不安定に夜道を横に往復するかのように歩きながら帰っていくもんだから、店長は心配そうに最後まで見届けてくれているようだった。

 ようやく、アパートに着くと意識もなく一瞬で寝ついていた。もう記憶がすっ飛んでいて気がついたら翌朝になっていた。

「は・・・」

寝間着に着替えもせずに仰向けになったまま、朝の日射しがアパートの窓を伝って自分の顔に語りかけるように起こしてきた。

「なに・・・やってんだか・・・」

 自分がほとほと情けなくなった。朝ご飯を何とか食べ終わり歯磨きをして、リビングにあるノートPCのネットバンクの預金のデータを見てみた。改めて気づいたがどんどん残高が減っていた。現実から逃げたいから、修一はまたコンビニに酒を買いに行こうと外に出ようとするとピンポーンとなった。

ドアを開けるとそこには父立彦が立っていた。